歯列矯正を始める前に

 

 治療を開始する前に知っておくべきこと 

 

  健康で文化的な生活を送り,若々しく,そして美しくありたいと願うこと,これは誰もが希望することです.きれいに並んだ白い歯は,美しい笑顔の大きな要素といえます.求められる「医療」は,それぞれの国の多様な文化,社会背景,そして個人個人の価値観や生活環境などによって,その期待や優先順位は異なります. ☛ 諸外国の現状 

 現代の歯列矯正は,歯ならびや口もと,顔かたちを整えることによって,患者さまの社会的障がいを取り除き,顔貌や見た目による社会参加への制約「心の病」を改善したり,生活障がいの回復のために歯の位置異常,欠損,形態異常といった「体の病(疾病/病気)」を回復・増進します

 

矯正歯科医療は,

 ① 「顔貌」や「見た目」,外見による社会参加の制約, 「心の病」 への医療と

 ② 顎変形症や先天性疾患心身機能の障害, 「身体の病,疾病」 への医療(わが国ではこちらが保険適用)

 の2つの概念があります.

 

 この2つの概念,医療の価値観は,『医療/病気/健康とは何か』 という多様な社会や個人の概念の中で,少しずつ制度的にも変化し続けており,今後の社会変化によっても変わりうるものです.健康」「病気」また「美しさ」についての文化・社会的な価値観,医療」のあるべき姿は,それぞれの国(UHCの現状),地域,また患者さまご自身やご家庭によっても異なるものですが,普遍的な医療に関する以下の点については,十分にご理解いただくようお願いいたします.

  1. (医療)医療の目的は健康の維持・増進です.健康に影響する病気や症状のため,医師・歯科医師など医療従事者に診てもらう時,あなたは医療を受けています.医療従事者は心配事を聴き,症状の原因を見つけ,病気や疾患を治すための検査をし,検査結果とその意味を分かりやすく説明し,あなた自身が治療選択肢を決めることを助けます.これらの医療を受ける時,あなたは「患者」と呼ばれます.

  2. (医療行為)医療行為は,簡単に言うと「人が他人を治す」という社会的実践です.社会的・文化的行為であり,共同体構成員が病的状態,適応状態から逸脱する場合に,共同体が持っている技術,知識,富という社会的資産と労働力をもって,病的状態の人が,健康に生存し続けるように手当,治療をすることです.

  3. (医療と医学)医療を実践する知識や経験,病気を認知し,原因を同定追求し,対処法を提示する知識理論体系を「医学」と言います.先に「医療」があり,「医学」はその「医療」を効率よく実践するための意図的に編集された学問知識体系です.「医療」は人類の歴史とともに古く,連綿と続いているのに対し,「医学」は時代と共に変化してゆきます.

  4. (医療安全)医療は本質的に不確実・不確定な部分があり,すべての医療行為には常にリスクを伴います.医療安全には最善を尽くしていますが,予期せぬ重大な合併症や偶発事故は起こり得ます.医療の不確実性は,生命の複雑性や有限性,人体の多様性,医学の限界にも由来し,低減はできても,消滅はできません.医療行為とは無関係の病気や,加齢に伴う症状が医療行為の前後に発症することもあります.勿論,これらの治療には最善を尽くしますが,予後に影響を及ぼす後遺障害が残存し,時に死亡に至ることもあります.

 明治期に西洋歯科医学が取り入れられ,現在では大変身近なものとなり,美しさに対する価値観も西洋諸国と変わらなくなりつつあります.しかし,歴史的・文化的背景から,西洋諸国,欧米と日本人の持つ病気観には,まだ概念的にも異なるところがたくさんあります.共通していることは,矯正歯科医療という歯や顎顔面の整形術は,口腔や顔面の環境を整えることで,患者さまの生活上の障がいを改善し,well-being,生活の質QoLの向上へ貢献するという社会的・文化的な医療分野といえるでしょう.

 当院では,まず患者さまの持つ価値観,ご要望をご理解することに努め,求められている医療に対するご期待をお聞きすることから始めます.治療方法は多様であり,通常,一つだけということはなく,複数の治療方法がご提案できるでしょう.患者さまのお持ちになられている生活背景や価値観,優先順位を共有しつつ,また医療倫理上の原理原則に沿って,お互いに合意できる治療計画を一緒に考えてゆきます.歯列・顎顔面の矯正歯科医療は,歯並びという見た目だけを治すのではなく,治療後も生涯にわたって,患者さまの人生に大きく影響する歯周組織や顎関節(あご),骨の成長を含めた医療行為であるという点をどうぞご理解ください.

 最後に,歯列矯正歯科医療は,2年~3年という期間に渡って通院する時間的要素に加え,保険診療外の治療費(厚生労働大臣の認める疾患は保険診療になります)をご負担いいただくことになります.検査・診断によって治療方針にご同意いただき,いったん治療が始まると,途中で治療を中止したり,転居などのため通院するクリニック(主治医)を変更することは望ましいことではありません.どうぞ以下に続くページ内容は必ずお読みになり,不明な点は相談時に遠慮なくお尋ねください.以下の内容は十分にご一読されご理解ください.

 

1.はじめに

2.矯正歯科医療の目的

3.よい咬み合わせとは?

   不正咬合の治療目標,原因と予防

3.矯正治療のリスクと限界

   いわゆる”顎関節症”

   歯肉退縮と歯周形成外科

   抜歯やアゴの手術について

4.相談・検査・治療の進め方

 ① 検査について

 ② 治療をはじめる時期について

 ③ 来院間隔について

 ④ 治療期間について

 ⑤ 治療が終わったら

 ⑥ 転医・治療中断について

5.装置の選択について

 ① アライナー装置(「マウスピース矯正」)

   ・歯科矯正用治療支援プログラム

   (クリンチェック®ソフトウェア)

 ② エッジワイズ装置

   (ワイヤー矯正,Braces:ブレース)

   ・リンガル ブレース(歯の裏側の装置)

   ・エステティック(審美)ブレース

   ・メタル(金属)ブレース

 ③ アンカー スクリュー

 ④ エラスティックス(顎間ゴム)

 ⑤ 機能的顎矯正装置(可撤式装置)

 ⑥ リンガル・アーチ〔舌側弧線装置 〕

 ⑦ 顎外固定装置

6.患者さま・保護者へのお願い・注意事項

以上の内容は,治療の説明のあらましです.

個人個人の歯並びの状態によって

説明と異なることがあるかもしれませんがご了承下さい.